3Dプリンタに興味はあるけれど、「そもそも何ができるのか分からない」「種類が多くて、どれを選べばいいのか迷う」と感じていませんか。
実際、3Dプリンタは情報が多く、何から調べればいいのか分からないまま購入を検討してしまい、「思っていたのと違った」と後悔するケースも少なくありません。
私は機械設計エンジニアとして、業務で3DCADデータを基に3Dプリンタによる造形を行ってきました。
その経験から、導入前に知っておくだけで失敗を避けられるポイントがあると感じています。
この記事では、3Dプリンタの基本的な仕組みから、できること・注意点・初心者が失敗しない選び方の考え方までを、初めての人でも分かるように整理して解説します。
記事のゴールは、「初めてでも1個、3Dプリントを成功させること」です。
3Dプリンタはポイントさえ押さえれば、初心者でも十分に楽しめる機械です。
この記事を通して、あなたのものづくりの第一歩を後押しできれば幸いです。
この記事で分かること
- 3Dプリンタの基本的な仕組みと、できること・できないこと
- 初心者が最初に知っておくべきメリット・デメリット
- 家庭用3Dプリンタの種類と、失敗しない選び方の考え方
- 3Dプリンタを使うために最低限必要なもの
- 初めてでも1個造形するまでの具体的な手順
3Dプリンタとは
3Dプリンタとは、3DCADや3DCGなどで作成した3Dデータを基に、立体物を作り出す機械です。
材料を薄い層として1層ずつ積み重ねて形を作ることから、「積層造形装置」とも呼ばれます。
最大の特徴は、これまで外注や加工が必要だった立体物を、自宅で・必要なときに・自分で作れることです。
現在では家庭用でも高性能かつ手頃な価格の機種が増え、個人でも3Dプリンタを使ったものづくりが現実的になっています。
3Dプリンタは魔法の機械ではなく、試しながら使うタイプの工作機械です。
そのため、造形には失敗が伴うこともありますが、最初の1回でうまくいかなくても、それは普通のことです。
ただし、最初から難しい設計や複雑な設定をする必要はありません。
用意された小さなテストモデルやシンプルな置物を使えば、初心者でも「まず1個造形できた」という成功体験を得ることが十分可能です。
本記事では、その最初の成功体験をゴールに解説していきます。
3Dプリンタでできること
3Dプリンタを使うことで、次のようなものを自作できます。
- 日用品の小物や治具、収納パーツ
- 破損した部品や、市販されていないパーツの代替品
- 中が空洞になった形状や、内部に通路を持つ複雑な構造
特に家庭では、「ちょっと不便」「買うほどではない」と感じるものを、自分で形にできる点が大きな魅力です。
メリット
- 既存の3Dデータをダウンロードすれば、モデリング不要ですぐに造形できる
- 3Dデータを自作すれば、自分の用途に合わせて自由にカスタマイズできる
- 中空構造や一体構造など、切削加工では難しい形状も1回で作れる
- 必要なものを、必要なときに、必要な数だけ作れる
「まずはデータをダウンロードして1個作ってみる」だけでも、3Dプリンタの楽しさと可能性を十分に体験できます。
デメリット
最初に知っておくべき点として、初心者が特に直面しやすいものに絞って紹介します。
- 造形には時間がかかり、失敗することもある
- 造形サイズには上限があり、大きなものは作れない
- 機種や材料によっては、音・振動・においが発生する
- 表面品質は射出成形品ほど滑らかではない
ただし、これらは3Dプリンタの特性によるものであり、この記事の手順どおりに進めれば「最低限の成功体験」は必ず得られるように構成しています。
どんな人に向いているか
向いている人
- DIYやものづくりを楽しみたい人
- 試作や改善を繰り返す用途がある人
- 最初は完璧でなくても、まず1個作ってみたい人
向いていない人
- ボタン一つで必ず完璧な結果を求める人
- 音・におい・失敗を一切許容できない人
- 最初から大量生産や業務レベルの品質を求める人
市販データを使うだけでなく、形状を少し調整できるようになると、活用の幅は一気に広がります。
次章では、家庭用で主流となっている3Dプリンタの基本的な仕組みを解説します。
3Dプリンタの基本的な仕組み
3Dプリンタは造形方式によっていくつかの種類に分かれますが、家庭用として使われているのは、主に FDM方式 と 光造形方式 の2種類です。
それぞれに得意・不得意があり、用途によって使い分けますが、初めて3Dプリンタを使う場合は、方式選びが成功体験を左右します。
FDM方式
FDM方式(Fused Deposition Modeling/熱溶解積層)は、フィラメントと呼ばれる熱で溶ける樹脂をノズルで溶かし、1層ずつ押し出して積み重ねていく方式です。
家庭用3Dプリンタで最も普及している方式で、初心者向けの機種も多く販売されています。
特徴
- サポート材を使うことで、空中に浮いた形状も造形できる
- 単色だけでなく、多色造形に対応した機種もある
- 構造がシンプルで、メンテナンスが比較的簡単
注意点
- 曲面では積層痕(層の境目)が見えやすい
- 積層方向によっては強度が弱くなる
- 材料の特性により、反りや変形が起こる場合がある
最初のテストプリントであれば、これらの点が致命的な問題になることはほとんどありません。
正しく使えば家庭内でも安全に扱え、「まず1個造形する」という目的には十分に安定した方式です。
光造形方式
光造形方式は、レジンと呼ばれる液体樹脂に紫外線を照射して硬化させ、1層ずつ積み重ねて造形する方式です。
非常に高精細な造形が可能で、フィギュアやアクセサリーなどの細かい表現に向いています。
特徴
- 1層あたりの厚みを非常に薄くできる
- 表面が滑らかで、細部まできれいに再現できる
- 小型で精密な造形に強い
注意点
- 造形後に洗浄や二次硬化などの後処理が必要
- 液体レジンの取り扱いに注意が必要
- 臭いや換気、消耗部品の管理が必要
高精細な反面、作業工程や管理項目が多く、初めて3Dプリンタを使う場合は負担が大きくなりがちです。
初心者にFDM方式がおすすめな理由
初めて3Dプリンタを使うなら、FDM方式がおすすめです。
FDM方式は、
- 扱いやすい
- 後処理がほとんど不要
- 消耗品や材料の管理が簡単
- 失敗しても危険が少ない
といった特徴があり、「まず1個造形できた」という成功体験を得やすい方式です。
光造形方式は高精細ですが、後処理や材料管理の手間が増えるため、慣れてから選ぶ方が安心です。
家庭用と業務用の違い
家庭用3Dプリンタは、趣味や個人利用を想定して設計されています。
一方、業務用3Dプリンタは、
- 大型造形
- 材料の選択肢
- 長時間稼働
- 耐久性
を重視した、現場向けの機種です。
個人用途や試作目的であれば、家庭用3Dプリンタで性能は十分です。
次の章からは、家庭用3Dプリンタとして最も一般的なFDM方式を前提に解説していきます。
3Dプリントに最低限必要なもの
FDM方式の3Dプリンタで造形する場合、「3Dプリンタ本体、フィラメント、PCとスライサーソフト、3Dモデルデータ」があれば、初めてでもテストプリントを完了できます。
難しい工具や特別な知識は必要ありません。
まずは「1個造形できた」という成功体験を目指しましょう。
なお必須ではありませんが、スクレーパー(ヘラ)やニッパー、六角レンチ、ノズルクリーナーなどがあると、造形物の取り外しや簡単な調整が楽になります。
これらは必要になってから揃えても問題ありません。
3Dプリンタ本体
まずは3Dプリンタ本体が必要です。
造形データは、microSDカード、USB、Wi-Fiなどでプリンタに送信できます。
ご自身の環境や使いやすさに合わせて選んでください。
フィラメント
フィラメントとは、糸状の熱可塑性樹脂でできた、造形用の材料です。
さまざまな種類がありますが、最初は造形が安定しやすい「PLA」を選べば問題ありません。
PLAは、
- 反りにくい
- 臭いが少ない
- 設定がシンプル
といった特徴があり、初心者向けの材料です。
他の材料については、慣れてから少しずつ試していけば十分です。
PCとスライサーソフト
スライサーソフトは、3Dモデルデータを基に造形条件を設定し、3Dプリンタ用のデータを作成するソフトです。
多くの場合、3Dプリンタの操作はPCで行う必要があり、スマホだけでは難しいです。
無料で使えるものも多く、最初は3Dプリンタに付属、または公式に推奨されているスライサーを使えばOKです。
最初から細かい設定を理解する必要はなく、プリセット設定のままでテストプリントを行えます。
3Dモデルデータ
3Dモデルデータの入手方法は、主に次の2つです。
- ダウンロードデータ(無料・有料)
- 自作データ(3DCADソフトを使用)
最初のテストプリントでは、テスト用データやシンプルな形状のモデルを使うのがおすすめです。
なお、3Dプリンタの造形サイズを超えるモデルは造形できません。
また形状によっては失敗しやすいものもあるため、最初は小さく単純なモデルを選びましょう。
3Dプリンタの購入で失敗しない考え方
家庭用で十分
初めての3Dプリンタは、家庭用(FDM方式)で十分です。
業務用の高性能機は設定項目が多く、専門知識を前提としているため、初心者には扱いが難しい傾向があります。
家庭用3Dプリンタでも、テストプリントや小物・部品作りであれば問題なく行えます。
造形の安定性と初期設定の簡単さ
初心者が最も重視すべきポイントは、造形の安定性です。
ノズル詰まりや反りなどのトラブルが少ない機種を選ぶことで、造形の成功率が大きく変わります。
あわせて、初期設定が簡単な機種を選ぶことも重要です。
組み立てや調整でつまずくリスクを減らせます。
例えば、
- ベッド(説明書ではビルドプレートと呼ばれます)自動水平調整機能がある
- 初期設定の手順が分かりやすい
- トラブル時の情報や表示が充実している
といった点は、初心者にとって大きな安心材料になります。
スペック・価格で迷わない
カタログに並ぶスペック表の数字(加熱速度、XY精度など)は、初心者にとってはほとんど判断材料になりません。
また、価格だけで選ぶと、
- 安すぎてトラブルが多い
- 高すぎて持て余す
といった失敗につながりやすくなります。
まずは、
- 安定して造形できるか
- サポート情報が多いか
この2点を基準に考えるのがおすすめです。
情報量が多い機種を選ぶ
初めての3Dプリンタでは、「困ったときに調べて解決できるか」 が非常に重要です。
- フォーラムやQ&Aが活発
- 解説動画が多い
- 日本語マニュアルや記事が充実している
こうした情報が多い機種を選べば、失敗しても学びながら進められ、初心者でも安心して使い続けられます。
迷ったらこの3点だけ確認
購入前に、最低限次の3点を確認しておけば、初めての3Dプリンタ選びで大きく失敗することはありません。
- 家庭用のFDM方式か
- 造形が安定しているという評価が多いか
- 情報・解説が豊富に見つかる機種か
ここで紹介した考え方を基準に選べば、初心者でも安心して最初の一台を決められます。
実際にどの機種がこれらの条件を満たしているのかについては、別記事「初心者向け3Dプリンタの選び方」で、具体例とともに紹介しています。
→おすすめ記事:「初心者向け3Dプリンタの選び方」(只今執筆中)
3Dプリンタのセットアップ
3Dプリンタは、設置環境や初期設定によって、使い勝手や造形の成功率が大きく変わります。
ここでは、初心者が特につまずきやすいポイントだけに絞って解説します。
すべて完璧にやる必要はありません。
「まず1個造形できる状態」を目指しましょう。
設置場所の注意点
3Dプリンタは設置環境の影響を受けやすいため、次のポイントだけは必ず押さえてください。
- 安定した水平な場所
→ 造形中は細かく動くため、机が揺れると失敗しやすい - 風が当たらない場所
→ 冷え方が不安定だと、反り・はがれが起きやすい - 温度が安定している場所
→ 室温20〜30℃程度が理想 - 換気できる環境
→ PLAは比較的安心だが、換気は推奨
これを守るだけで、失敗率はかなり下がります。
開封と組立て
同梱されている内容物を確認し、組立手順書を見ながら組み立てていきます。
- 輸送時の固定具や保護材は必ず外す
- 組み立てが完了するまで電源は入れない
この2点だけは注意してください。
初期設定と動作確認
電源を入れたら、画面の案内に従って、言語・地域・ネットワークなどの初期設定を行います。
次に、キャリブレーションを行います。
キャリブレーションとは、3Dプリンタが正しく造形できる状態に調整する作業です。
これを行わないと、
- 最初の層がくっつかない
- 表面がガタガタになる
- 寸法がズレる
といった失敗が起こりやすくなります。
初心者が最初にやるべきキャリブレーションは、次の3つだけで十分です。
- ベッドレベリング
- Zオフセット
- エクストルーダーキャリブレーション
最近の機種では、これらを自動で行ってくれるものも増えています。
テスト前の最終チェックリスト
以下は、初心者が「ここだけ見れば安心」という内容に絞ったチェックリストです。
プリンタ本体
☐ 電源が入る
☐ 異音・異臭がしない
☐ 可動部がスムーズに動く
☐ 周囲にぶつかる物がない
→「動かしても何も当たらない」ならOK
ノズル
☐ グラついていない
☐ 古い材料が固着していない
☐ 温めると材料が出てくる
→ 材料が出ればOK
ベッド
☐ 表面がきれい
☐ グラついていない
→「きれいで動かない」が重要
ベッドレベリング
☐ 紙1枚が入る
☐ 少し引っかかる
☐ 四隅+中央を確認
→ 最初はこれで合格
フィラメント
☐ PLAを使用
☐ 絡まりがない
☐ 正しくセットされている
スライサーの設定
☐ 機種を選択
☐ 材料を選択
☐ デフォルト設定
☐ 小さなテストモデル
→ 最初は変更しないのが正解
温度
☐ ノズル:PLAで200℃前後(±10℃程度)
☐ ベッド:PLAで50〜60℃前後
造形スタート前の最終確認
☐ 最初の1層をその場で見る
☐ 失敗したら止めていい
☐ 完璧を目指さない
→ 最初の造形は練習です
初心者がやりがちな初期トラブル
- フィラメントが出てこない
→ 装填ミス、先端が潰れている - 1層目がくっつかない
→ ベッド汚れ、Zオフセットずれ - 途中で剥がれる
→ 風、温度、ベッド清掃不足
キャリブレーションは一度やれば終わりではありません。
- ノズル交換
- ベッドを外した
- 本体を移動した
こうした場合は、再調整しましょう。
3Dプリントしてみよう
ここまで準備ができたら、いよいよ実際に3Dプリントしてみます。
最初の造形で大切なのは「きれいに作ること」ではなく、3Dプリントの一連の流れを体験することです。
今回は、「データを用意して → 造形して → 取り外す」という流れを最後まで体験することをゴールにします。
テストプリント用データの準備
テストプリントでよく使われる小さな船のモデル 「3DBenchy」 を使います。
3DBenchyは、世界的に有名なベンチマーク用3Dモデルで、誰でも無料で入手できます。
3DBenchy公式サイトの「Download」から STLファイル をダウンロードしてください。
スライサーソフトの基本設定
スライサーソフトで3Dデータを読み込んだら、次の点だけ確認します。
- 使用するプリンタの機種
- フィラメントの種類(PLAなど)
- ノズル径(多くは0.4mm)
これが合っていれば、設定は変更しなくてOKです。
最初はデフォルト設定が最も成功率が高くなります。
設定ができたら、造形用データ(G-code)を書き出し、microSDカードやUSB、Wi-Fiなどでプリンタにデータを送ります。
テストプリントの実行
プリンタにデータを送ったら、造形を開始します。
必ず最初の1層(ファーストレイヤー)を確認してください。
チェックポイントは次の通りです。
- 材料がベッドにしっかりくっついている
- 線が途切れずにつながっている
- ノズルがこすっていない
もし明らかにおかしいと感じたら、遠慮せずに一度停止してOKです。
最初の造形は練習なので、止めることは失敗ではありません。
造形物の取り外し
造形が完了したら、すぐに無理やり剥がさないようにしましょう。
おすすめの手順は以下です。
- ベッドが冷えるまで待つ
- 手で軽く動かしてみる
- 取れない場合はスクレーパーを使う
無理に力を入れると、
- 造形物が割れる
- ベッド表面を傷つける
原因になります。
きれいに外せたら成功です。
初回はここまでできれば大成功
最初の3Dプリントで大切なのは「プリンタが最後まで動き、物が完成すること」です。
表面の荒れや寸法のズレは気にせず、一連の流れを体験できれば大成功です。
次のステップでは、
- もっときれいにする
- 失敗を減らす
- 自作データを造形する
といったことに挑戦していきましょう。
次にやるべきこと
「初めてでも1個造形できた」ら、3Dプリンタはもう特別な機械ではありません。
ここからは、少しずつできることを増やしていきましょう。
以下の内容は、興味が出てきたものから1つずつ試せば十分です。
もっときれいにする
積層痕を減らして仕上がりを良くするには、スライサーソフトの設定調整がポイントになります。
積層ピッチ、造形速度、サポート設定などを調整すると、仕上がりが大きく変わります。
造形品質を上げたい人向けの内容は、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ おすすめ記事:「3Dプリンタの使い方」(只今執筆中)
失敗を減らす
造形に慣れてきたら、キャリブレーションと造形前のチェックを習慣にしましょう。
- ベッドレベリング
- Zオフセット
- エクストルーダーキャリブレーション
これらを意識するだけで、失敗の回数は大きく減ります。
自作データを造形する
3Dプリンタの本当の楽しさは、「自分のための形」を作れることです。
3DCADと組み合わせることで真価を発揮するので、簡単なモデルから挑戦してみましょう。


